初めての空冷ビートル選びで行き当たるポイント。キャブorインジェクション。
世間的には「空冷ビートルはキャブが1番」「インジェクションはダメ」とされてしまうことが多いですが、本当にそうなのでしょうか?
この記事では、キャブ車とインジェクション車のメリットデメリット。あまり知られていないインジェクションビートルの良さも紹介。
そもそもキャブ、インジェクションって何?
キャブ(キャブレター)とは別名「燃料気化器」。
内燃機関(ガソリンエンジン等)に置ける燃料供給装置の1つで、液体状態の燃料(ガソリン等)と空気を適正な混合比で混ぜ合わせ気体化させ、エンジンシリンダー内に供給するための装置。
キャブレターの構造は至ってシンプルで、すべての動作はベルヌーイの定理に基づく物(流体の速度が増加すると圧力が下がること)。キャブレターの入口から吸われた空気が内径の絞られたベンチュリーを通過することで流速は加速(ベンチュリー効果)。ベルヌーイの定理により静圧は低下する為、大気圧が保たれているフロート室内からガソリンは吸い出され、霧状に噴出。ガソリンと空気が混ざり合うと言った仕組み。
よく例えられるのは、水の入ったコップにストローを挿し、ストロー上部を横からストローで吹くと霧状に水が吸い出される、アレ。
インジェクションとは正式名称「Fuel injection system」。和名「燃料噴射装置」。
キャブレターではキャブレター内で混合気にしていましたが、インジェクションではキャブレターの役割を分散。空気は空気のままシリンダー内に送られ、ガソリンは直接エンジン内(マニフォールドやシリンダーなど)にインジェクターで霧状に噴射される仕組み。キャブレターではそのほとんどの機能を機械的に一連の動作で行っていたのに対し、インジェクションではすべての動作を機械的もしくは電気的に制御。気圧や温度など外気に左右されやすかったキャブレターとは違い、環境やエンジン状態に合わせた制御が可能になりました。微細な管理が可能になったことで、性能や燃費の向上、排ガスの抑制にも貢献。今ではほとんどの自動車でインジェクションが採用されています。
空冷ビートルのキャブ車
キャブ車のメリットは、何より構造がシンプルなことと、その乗り味。
キャブ車の燃料供給装置と呼べる部分が、キャブレターとそこに燃料を送る為の燃料ポンプのみで構成されている為、メンテナンスしやすく修理も容易。実際「修理」となればある程度のスキルは必要ですが、電気を使わないアナログな構造は、不良箇所を「目視」で確認出来る部分も多く、そういった点では素人にも手が出しやく、趣味性も高くなる要因。アフターマーケットパーツも豊富でキャブレターと燃料ポンプを買っても3万円程度と安価。
現在のインジェクション車がすべてのドライバーや環境下でフラットな操作性や性能を実現している反面、キャブ車のような「操作感」の欠如が面白味に欠けると感じることもあります。キャブ車では、ドライバーの運転技術に少なからず依存する部分もありますが、逆にそのことが運転の楽しさ・面白味にもなっています。
キャブ車のデメリットは、多少の運転技術が必要なことと定期的なメンテナンスが必要なこと。
大衆車である空冷ビートルは誰でも乗れる車。「でした」。キャブ車が主流だった当時としては、当たり前だった自動車の運転方法や向き合い方も、時代の変化と共に変わり、当たり前ではなくなってしまい「面倒=デメリット」に。
乗り方に関しては、始動時にキャブ車特有のアクセル操作が必要であったり、環境(気温など)の変化にあった対応(暖気運転など)などが必要な場合があります。メンテナンスに関しては、現在の車が普段メンテナンスフリーであるのに対し、空冷ビートルでは定期的なメンテナンスが必要。これは当時の車が「メンテナンス修理しながら長く乗る」ことを前提としていたことが理由です。
空冷ビートルのインジェクション
インジェクション車のメリットは、安定したエンジン動作と癖の無い操作性。
キャブ車と比較すると、多くのメリットがあるインジェクション車。そのメリットは空冷ビートルでも例外ではなく、最初に乗り比べて気付くのは、その始動性の良さとエンジンのトルク感。インジェクションなので当たり前ですが…キャブ車のような「始動の儀式」は一切不要。ただキーを捻るだけで、寒暖にも左右されずアイドリングも安定します。そしてもう1つが「トルク感」。空冷ビートルのインジェクション車は、1600ccのキャブ車と共通のエンジンブロックを使用している為、内部の仕様に大きな違いはありませんが、インジェクション車では明らかに分かるほどにトルク増。その性能差は低中速のみならず高速域にもあり、最高速はキャブ車以上です。
インジェクション車のデメリットは、構造の複雑さと修理の難しさ。
性能面だけで言えば、キャブ車より高性能なインジェクションですが、その性能を維持する為に、キャブ車とは比較にならないほど複雑な仕組み。制御ユニット(ECU)を始め、安定した動作を行う為に必要な多くのセンサー類や電気部品。その中には寿命があるものあり、いつかは故障の原因にもなります。新車から10〜20年(もしくは走行距離)で廃車されてしまう車では、メンテナンスフリー化に貢献した「一生モノ」の電気部品も、「その先」に関しての寿命は未知数。
キャブ車に比べ構造が複雑故に、インジェクションを「ブラックボックス扱い」してしまう傾向があり、メンテナンス不足に陥っている車両も多くあります。実際、修理の段階では、キャブ車に比べ部品の流通量が少ないのもネック。壊れる頻度の高い部分に関しては、一定数の流通があり修理も可能ですが、他の部分に関しては入手が困難な部品も多くあります。部品価格は、キャブ車用に比べて、アフターマーケット品の少なさや純正部品の減少で、やや高め。
まとめ。乗るならどっち?
メンテナンス性の高さや修理の容易さでは間違いなくキャブ車。多少コツを必要とする操作性も旧車らしさがあり、現行車では味わえない楽しみの1つ。ただその反面、キャブ車特有の不安定さや不調に陥りやすい部分もあり、そういった部分まで楽しめるかが選ぶポイントにもなります。
キャブ車とは対象的に否定的な意見も多いインジェクションですが、実際のところはメンテナンス次第なところもあり、全般的にはキャブ車より不調になる頻度は少なめです。動作の安定感やクセの無い操作性も捨てがたいポイント。
どちらが絶対にいい、ダメと言ったことはなく、オーナーの趣味やライフスタイルに合わせて選ぶことが最良です。