クラシックカーファンであれば、1度はこんな妄想をしたことがありませんか?
「現行車の性能を持ったクラシックカーに乗りたい」
実際それを実現させたのが、現代版カルマンギアとも呼べる、スバル水平対向エンジン搭載車。簡単に高性能ハイパワーエンジンを手に入れられる、空冷ワーゲンのエンジンスワップをVWstyle徹底解説!そのメリットとデメリット。実現までの道のりも合わせて紹介。
エンジンスワップ
元々の馬力が40〜50HPと決して高くない空冷ワーゲンでは、古くからエンジンスワップが行われてきた歴史があり、パワーアップの常套手段の一つ。
VWオリジナルエンジンを改造する正統派なチューニングも盛んに行われてきましたが、改造することでパワーは上がる反面、お金や手間が掛かり、何より「素人には難しい」のが最大ネックでした。
そこで目を付けたのが、ジャンクヤードに転がる「他車エンジン」。最初からハイパワーなエンジンであればチューニングの必要は無く、何より中古エンジンであることから「格安」なことが最大の魅力。高性能なエンジンを手軽に手に入れられるエンジンスワップは、自宅ガレージでもDIYが可能で、空冷ワーゲンでも盛んに行われて来た手法。
スバルエンジンが選ばれる理由
空冷ワーゲンのエンジンスワップでスバル製エンジン(スバルボクサーエンジン)が選ばれる理由は、空冷ワーゲンと同じ水平対向4気筒であることからです。
スバルエンジン以外にも空冷ポルシェエンジン、マツダロータリー、V8、トヨタ・ホンダ・フォードなどの直立4気筒エンジンなども使われて来ましたが、近年重要視されるのは、ハイパワーであることと、その「見た目」。スワップ用エンジンを選ぶポイントは、高い信頼性・高性能・載せやすさ・エンジンサイズ・中古価格などがありますが、そのすべてを兼ね備えているのがスバルエンジン。空冷ワーゲンと同じ水平対向4気筒エンジンであるスバルエンジンは、エンジン特性も似ていることから、実際乗っても「まったくの別エンジン」と言った違和感も少なく、空冷ワーゲンエンジンに通じるものがあります。
エンジンサイズ比較(実測)では、空冷VWタイプ1エンジンとスバルEJ20エンジン・シングルカムは縦横共にほぼ同寸。EJ20ツインカムはヘッドが大きい分、横幅がタイプ1エンジンよりプラス5センチ程度広めですが、加工次第でギリギリボディー内に収まるサイズです。
スバルエンジンスワップ作業
カルマンギアでのスバルエンジンスワップの最大のポイントは、エンジン…ではなく、車体の水冷化。空冷であるカルマンギア(ビートル)は、冷却装置(ラジエターや水路)が不要であるため存在せず、水冷エンジンを載せるに当たり、1番の課題になるのは冷却装置の設置。ラジエターは走行風が当たる場所への設置が好ましいのでフロントがベストですが、ラジエターグリルを持たないカルマンギア(空冷ワーゲン)では、ラジエターの配置とそこまでの水路(パイピング)の設置が大きな課題となります。
実際のスワップ作業では、膨大な加工・工作も必要になりますが、最近ではスワップで必要に専用パーツが売られているので、それらを用意することで作業の簡略化も図れます。
スワップで最低限必要な物は
- スバルエンジン(EJ20等)
- エンジンアダプターキット
- HDクラッチ
- HDトランスミッション(必要な場合)
- ラジエター(と、そこまでのパイピング)
- ECUハーネスキット(純正加工もしくは市販専用ハーネス)
KEP製エンジンアダプター(KEP社ケネディエンジンアダプター略)はVWトランスミッションへスバルエンジンをボルトオン出来るアダプター。VWクラッチが使用出来る専用フライホイールが付属されている為、スバルエンジン側はマニュアル用AT用問わず使用可。アメリカなので北米モデル「EJ22,EJ25用」とされていますが、国内EJ20とも互換性があり使用可能です。
スバルエンジン化は「VW純正ミッション+アダプター+スバルエンジン」が主流。純正ミッションを使用する場合、載せるエンジンのスペックによっては、強化が必要となりますが、それらすべてをカバー出来るトランスミッションが、「RANCHO製スバルエンジン用5速トランスミッション」。スバル用トランスミッションを空冷VWで使用出来るようにした物で、当然ながらスバルエンジンがボルトオン。ミッション強化・5速化・アダプターレスを実現出来る優れ物です。
エンジンスワップのデメリット
利点ばかりに思えるエンジンスワップですがデメリットも。
- 「エンジンの高性能化」が図れると点はメリットですが、エンジンスワップはあくまで改造。エンジン自体の信頼性や性能は上がったとしても、トラブルの原因はエンジンだけとは限らないため、メンテナンスフリー化された訳ではありません。エンジンスワップによって改造箇所も増えているので、ノーマル時よりトラブル原因になり得る場所も増えていると言えます。
- 容易にノーマルに戻すことが出来ないエンジンスワップは、車体の価値を下げてしまうことも。「オリジナルが最善」とされるクラシックカーの世界では、エンジンスワップは自己満足のみでの価値であることがほとんどです。
- クラシックカーの魅力は、見た目や雰囲気を楽しむ以外にも、乗り味・エンジン音・匂い・不便さを一貫して味わい楽しむ物。過度な近代化はクラシックカーの魅力を失わせてしまうことにもなります。
フォルクスワーゲン・カルマンギア
カルマンギアはフォルクスワーゲンが製造販売していたクーペ型スペシャリティーカー。コーチビルダー・カルマン社とカロッツェリア・ギア社が協力して誕生した車で「カルマンギア」の名称は両者の社名を合わせたもの。
コンポーネントはフォルクスワーゲン・タイプ1ビートルをほぼ流用する形で、ビートルと同じリアエンジンのRR。ボディーはカルマン社の原案を元にギア社がデザイン・製造を担当したハンドメイドボディー。スタイリッシュな2ドアクーペスタイルであることから、室内は広くないものの2+2で大人4人が乗れる広さを確保。
北米を中心に多くの国々に輸出され、フォルクスワーゲンである信頼性の高さと価格の安さなども手伝い、気軽に乗れるスポーツモデルとして人気を博しました。生産期間は1955年〜1975年(T-1系カルマンギア)。派生モデルでT-3カルマンギア、ブラジル・カルマンギアTCなどもあります。
カルマンギアエンジンスワップまとめ
メリットデメリットのあるカルマンギアのスバルエンジン化ですが、現行車のエンジンを使うスワップには、「夢」があるのも魅了される理由の一つです。
国内でもカルマンギア(空冷ワーゲン)のスバルエンジン化は少例あり、10年以上ノントラブルで走っている車両もあります。今後はスバルエンジンに限らず、時代に合ったハイブリッドやEVカルマンギアの登場が期待されます。