基礎知識

空冷ビートルってどんな車?モデル別のスペックやディテールの違いを紹介!

世界的人気車でもあるフォルクスワーゲン・ビートル。誕生から80年という長い歴史のあるビートルですが、その中でも特に人気なのが通称「空冷ビートル」。「空冷」とはエンジンを風で冷やす「空冷式エンジン」のこと。

現行車にはない独特のフィーリングやサウンドを持ち、その愛らしい形も特長の1つ。クラシックカーでありながら、今も尚普通に乗れる旧車として世界中で愛されている車です。

空冷ビートルとはどんな車なのか?その歴史やモデルを紹介します。

空冷ビートルの歴史

ビートルの正式名称は「Volkswagen Type1」(フォルクスワーゲン・タイプワン)。生産期間は1938年〜2003年。生産は本国ドイツ以外にもブラジル・メキシコ・オーストラリアなど20カ国以上で作られ、世界中に輸出されていました。

1933年 アドルフ・ヒトラーが国民車構想を発表

ヒトラーによる国民車構想ビートルの歴史は、1933年にドイツ首相に就任したアドルフ・ヒトラーが「国民車構想」を打ち出したことに始まります。国民車構想とは「国民全員が車を所有出来るようにする」いったもの。まだまだ車を所有することが難しかった時代に、国民が気軽に買える仕組みや国民車を作ると言った公約は、とても魅力あるものでした。

1938年 量産タイプ最終試作車完成

開発は自動車工学博士として名を馳せていたポルシェ博士に依頼。多くの試作を重ね1938年には量産タイプ最終試作車を完成。ヒトラーにより「KdF-Wagen」と命名されました。しかし、ほぼ同時に第二次世界大戦が勃発。新たに工場も建設し量産体制も整っていたものの、戦争に突入したことにより、車両はすべて軍事転用。結果的に国民に1台として渡ることはありませんでした。

戦争終結後、Kdf-Wagenはイギリス軍管理下に置かれ、社名を「Volkswagen」へと変更。それに伴いビートルの名称も「Volkswagen・Type1」となりました。その後も空冷ビートルは生産され続け、2003年にメキシコにて生産終了。空冷ビートルの生産期間は65年(1938〜2003)。累計生産台数は「2152万9464台」。(かつては世界で1番売れた車として首位を独占)

空冷ビートルの歴代モデル

ビートルは大きなモデルチェンジをしなかったことが知られていますが、時代に合わせた変化(改良)は多くありました。その代表が年代別でのビートルの愛称にもなっている、リアウィンドウ。

スプリットウィンドウ 1946年〜1953年

2つに分割されたリアウィンドウが特徴。戦前の試作車や戦中モデルも同じスプリットウィンドウですが、それらの車はType番号やKDF(KDF-Wagen)で呼ばれることが多く、一般的に「スプリットウィンドウ」と呼ばれるモデルは、1946年以降のVolkswagen Type1を指します。

リアウィンドウ以外に特徴的なのが、スプリットウィンドウ専用になる、左右対称のダッシュパネル。(1953年はオーバルダッシュ)。左右にコンソールBoxを配置したデザインは後年のビートルには無い特徴。

エンジンは1131ccの25HP。通称「スタンドエンジン」。「スタンド」とは、ジェネレータースタンドのことで、後のエンジンではスタンドが別体部品なのに対して、スタンドエンジンではクランクケース一体であることからの愛称。

ホイールは後年15インチだがスプリットまでは16インチ。ブレーキは当初機械式でしたが後に油圧へ変更(STDは60年代まで機械式のまま)

オーバルウィンドウ 1953年〜1957年

スプリットウィンドウの真ん中の棒があることでの、後方視界の悪さを改善すべく、棒が無くした楕円形のリアウィンドウへと変更されました。フロントウィンドウサイズはスプリットから変わりません。

ダッシュパネルはオーバルウィンドウ専用デザイン。オーバルダッシュの特徴である中央のグリルはスピーカー。その下にラジオとスイッチ類が並ぶデザインで、スピードメーターはドライバー正面へと移動されました。

エンジンはスプリット時代の物よりパワーアップした1192cc36HPのスタンドエンジンを搭載。(STDは1131cc25HPのまま)

ホイールが16インチから15インチへ変更。

スクエアウィンドウ(スモールウィンドウ)   1958年〜1964年

楕円形だったリアウィンドウを四角(スクエア)に拡大。合わせてフロントウィンドウも拡大されました。サイドのガラスは64年式を最後に65年に拡大される為、58〜64年式は「スモールウィンドウ」の愛称で呼ばれています。

ダッシュパネルは運転時の操作性を考慮し、スイッチやラジオ位置を変更。この頃からドライブ時の快適性向上を目的とした変更も見られ、コンソールBox拡大や燃料計の追加もその1つ。このダッシュデザインは後年のビートルまで使われ続けました。

エンジンは60年式までがオーバルと同じスタンドエンジン。61年式より1200cc40HPの新型エンジンに変更されました。この新型エンジンは後年のタイプ1エンジンのベースとなる物です。

ミディアムスクエアウィンドウ 1965年〜1971年

65年にすべてのウィンドウが拡大。リアウィンドウは65年〜71年が同サイズで、72年に最後の拡大があります。フロントウィンドウ・サイドウィンドウ(サイズ)は65年以降共通(1303フロントウィンドウ除く)。※「ミディアムスクエアウィンドウ」は表記の都合上の名称で、一般的な愛称ではありません。

65年〜67年の間はビートルにとって大きな節目となる仕様変更が多くある年で、その1つが6Vから12V電装への変更。ビートル誕生から使われ続けられたヘッドライト形状(6Vライト)は66年まで。67年より12Vに変わり、ライト形状も変更されました。一般的に言われれ、低年式ビートル・高年式ビートルの境目が67年式(ロクナナ)です。

66年にはフロントサスペンションがそれまでのキングピン・リンクピン方式から、一般的なボールジョイント方式へと変更。合わせてアクスルビームも後年のタイプへ変更されました。(メキビーまで同じ)

エンジンは65年式までが1200cc。66年にはエンジン内部にも変更が加えられ、排気量は1300ccに。67年にはさらに排気量が増え1500cc。(スタンダードは1200cc)

ストラットビートル 1971〜1975(CONV〜1979)

フロントサスペンションがトーションバービームに代わり、ストラット式サスペンション(コイルスプリング)が採用されたモデル。開発にはポルシェ社が関わっていたことが知られており、Porsche924との共通部品も多い。1971年〜1972年が「VW1302」通称マルニー。1973年〜1975年(セダン)が「VW1303」通称マルサン。(カブリオレは最終79年式まで1303モデル)

ストラットビートルは、その丸みを帯びた顔つきから、「ぶさいく」と長らく不人気車のレッテルを貼られてきました。しかし近年、その良さや希少性が再認識され、特徴的な顔つきも「かわいい」と、ファンも増えています。

1302と1303の簡単な見分け方は、フロントウィンドウ。1302ではトーションバーモデルと共通のフロントウィンドウを持ち、ダッシュボードは従来のまま。対して1303では大型ラウンドスクリーンが採用され、専用のウレタンダッシュボードなのが特徴。(ドアから後部はトーションバーモデルと基本共通)

エンジンはデュアルポート1300ccと1600cc。1303″S”とSが付くのが1600ccモデルの意味。リア足回りは「IRS」。

インジェクションビートル 1976年〜1978(カブリオレ〜1979)

ビートル誕生依頼使われてきたキャブレターに替わり、1976年に初めてフューエルインジェクションを採用。ドイツビートルでは生産終了の78年まで使用されました。

76インジェクション(USモデル)

インジェクションビートルは「壊れる・修理が出来ない」などの噂から、不人気車扱いされることが多い車。ただし実際乗ってみるとトルクフルで、キャブ車のような煩わしさもなく扱いやすいビートルであることが分かります。古さ故の故障はあっても、ボッシュ製インジェクションの信頼性は未だ健在で、メンテナンスしていれば早々壊れる物ではありません。

ボディーやインテリアは前年までのモデルと大差なく、外観上でインジェクションと判別出来る部分はマフラーのみ。

メキシコビートル(メキビー) 1960年代〜2003年

Volkswagenメキシコ現地法人が製造した空冷ビートル。メキビーを「偽物」「コピー車」のように思われてい方も居るようですが、れっきとしたフォルクスワーゲン製ビートルです。メキシコでは60年代初頭に現地法人による本格生産が始まり、2003年まで生産。88年頃より日本にも多く輸入され、「新車の空冷ビートル」として人気を博しました。

数万台(6万台以上?)が日本にも輸入されたされ、その多くがインジェクション。(ドイツ製ビートルとは異なるシステム)。エンジン本体はドイツ製と互換性があり、信頼性で劣ることもありません。

ボディーは基本的に75年以降のドイツビートルと同一のディテールを持ち、一部のメキビー専用品を除き、多くのパーツはドイツビートル用が使用可能。

日本での販売はノーマルの他に「Vintageルック(6Vルック)」も作られ、多く販売されました。

空冷ビートルの構造

ボディーシャーシは、モノコック構造でありながら、ボディーとシャーシが分離する、セミモノコック構造。駆動方式はエンジンをリアに配置した、リアエンジン・後輪駆動のRR。ビートルの特徴でもあるシャーシは中央にトンネル状の骨格を持つ、「センターボーン・リアY字型フレーム」。トンネル左右にはフロアー(床)が溶接され、フレームの補強の役割も担う。Y字フレーム部分にミッションが収まる(載る)形で、そのミッションにエンジンが固定される構造。空冷ビートルはエンジンが軽量なこともあり、一般的なエンジンにあるエンジンを支える為のマウントは存在せず、ミッションにエンジンを繋げることで固定される。

サスペンションは前後横置きトーションバー。鉄棒を捻ることでバネの働きをさせるトーションバーは、耐荷重性に優れ、コイルスプリングの弱点でもある「ヘタリ」にも強いのが特徴。コイルとは違い「棒」を配置するだけのトーションバーは省スペースで済むため、空冷ビートルのような小型車には好都合なサスペンション。

タイヤ前方にあるチューブがトーションバー

空冷ビートルのエンジン

エンジンは「空冷水平対向4気筒OHV ガソリンエンジン」(通称フラット4・ボクサーエンジン)。

水を使う水冷エンジンとは違い、寒冷地や冬季でも安定した性能を得られること。水冷では必要な冷却装置が不要なことで、補機類の簡略化にも繋がり、整備性も良いのが利点。マグネシウムやアルミニウムなどの軽合金を多用したエンジンは、軽量で耐久性があり、高温・温度差にも強いのが特徴。特に劣悪な環境下で本領が発揮されるエンジンです。

25hpエンジン

開発時の逸話で、博士の提案したエンジンが「航空機エンジンのよう」「車のエンジンとしてはオーバークオリティ」と社内から批判があったほど、当時としては高水準なエンジンでした。

排気量は1000cc〜1600cc。馬力は22馬力〜60馬力。ドイツ製ビートルは76年にキャブからインジェクションへ変わります。メキビーは80年代後半はキャブ。90年以降はインジェクションです。

  • 1936〜1941年 1000(985cc)/22〜24hp
  • 1942〜1946年 1100(1131cc)/25hp
  • 1946〜1953年 1100(1131cc)/30hp
  • 1954〜1960年 1200(1192cc)/36hp(A型)
  • 1961〜1975年 1200(1192cc)/40hp(D型)
  • 1966〜1970年 1300(1285cc)/50hp(シングルポートF型)
  • 1967〜1970年 1500(1493cc)/53hp(H型)
  • 1971〜1973年 1300(1285cc)/52hp(デュアルポートAB型)
  • 1971〜1976年 1600(1584cc)/60hp(AD,AH,AS型)
  • 1976〜1978年 1600(1584cc)/60hp(インジェクションAJ型)
  • メキビー 1600(1584cc)キャブ/インジェクション

空冷ビートル概要

  • 車名/Type1
  • メーカー/Volkswagen
  • 国/ドイツ
  • 製造期間/1938〜2003
  • 生産台数/21,529,464台(ドイツ15,444,858台、カブリオレ330,251台)
  • クラス/コンパクトカー・エコノミーカー
  • ボディー/2ドアセダン・2ドアカブリオレ
  • 乗車定員/5人
  • 駆動方式/RR(リアエンジン・リア駆動)
  • エンジン/空冷水平対向4気筒OHVガソリン
  • 排気量/1000〜1600cc
  • ミッション/4速マニュアル・3速セミAT
  • ホイールベース/2,400〜2,420mm
  • 全長/4,070〜4,140mm
  • 全幅/1,540〜1,585mm
  • 全高/1,500mm
  • 重量/730〜930kg